〜長恨哀歌の絶える時〜
大森 華
無明とは昔愛欲の煩悩起こりしを云ふなり。男は父に嗔りを成して母に愛を起こす。女は母に嗔りを成して父に愛を起こすなり。倶舎の第九に見えたり。
(一念三千理事・平成新編日蓮大聖人御書百頁)
昔、唐の時代、楊貴妃は義父であった玄宗と心ならずも不義の契りを結び、皇族や家臣に一心に憎まれたあげく非業の死を遂げた。それから八百五十余年、戦国時代、親代わりの秀吉から尋常ならぬ寵愛を受けた淀殿も、正室や家臣の裏切りにあい、愛子と無念の死を遂げた。悪因縁は時を越え、処を変え、廻りに廻り、――平成の時、今世もまた、楊貴妃、淀殿の生まれ変わりの生命が、無間地獄の淵から恨みの哀歌を奏でる・・・真実の救済を渇望しながら・・・・・
第一部 馬嵬に死す
第二部 難波の城
第三部 蘇生