物心ついた時からずっと、愛と呼べる感情に接したことがない。愛して欲しいのに愛されない、愛を求めても満たされない、苦しい、情緒不安定な人生を送った。両親もいたし、人並みに結婚もしたが、彼らは私が望むような、真に愛してはくれなかった。というか、彼らには元々純真誠実な愛情を抱ける素地がなかったのかもしれない。父は良心もプライドもかなぐり捨て、賭博に溺れて父親も夫も放棄した性格破綻者、母はエゴの亡者で、異常なほど自分の感情に振りまわされるところはやはり性格破綻者だった。夫は家庭を破壊し、自分の欲望のままに生きる道を選んだ。
33歳の時、過食症に陥って、5歳の娘の世話も鬱陶しくなった。長年続いた愛の渇きに耐えられなくなっている自分をどうすることも出来なかった。だが、愛している娘を不幸にするくらいなら死んだ方がましだという理性は残っていた。なんとか立ち直らねばと日蓮正宗の門を叩いた。「御本尊様、命をかけて愛しあう人にめぐり逢いたいんです。私が求めている人にどうか逢わせてください!」生まれて初めて、ありのままの気持ちを吐露して願った。
自分なりに必死の信心だったと思う。・・・祈り続けて5年、信じられない奇跡が起きた。正しい信仰はかくも凄い力を発揮するのかと、その当時は慄いたものだ。ありがたい、不可思議な現証とともにその人は顕われ、懐かしい、淵ほど深い永久の愛で私の生命を包み込んだ。見ることも触れることも出来ぬ愛だが、日々の生活にその人の愛の護りをはっきり感ずることが出来た。私は幼女のように甘え、少女のように朗らかに笑い、乙女のように純愛の喜びに涙したものだ。愛の酸欠から息を吹き返した私は本来の品性を取り戻すことが出来た。家庭不和の地獄に苦しみながらも、両親と夫をその命終まで私なりに愛することが出来たのは、御本尊様の功徳のお陰でなくしてなんだろう。
あれから13年、仏様から授かった、その人の愛は褪せることなく途切れることなく、いよいよ強さを増して私を護ってくださっている。その甲斐あって、破壊された環境に崩れそうになる神経も護られ、不可思議な精神力で、家庭内暴力に荒れる愛娘を奇跡的に救うことも出来た。長かった、11年の閉じこもり。母娘がのたうちまわって泣いた地獄の日々だった。思い出せば今も血涙が出そうな、あの修羅場・・・母に悪態の限りを尽くし暴れ狂う娘の泣き顔、死ぬほど娘を思ってるのに髪を振り乱して叩かねばならぬ母のぐちゃぐちゃの涙・・・大事にも至らず、よくぞ護られたと思う。
最後に愛しいコマチのことを書こう。丸い黒目が愛くるしい、美顔のポメラニアンだった。生後2ヶ月でわが家の子となり、9歳10ヶ月で可愛い一生を終えた。仏の使いとはコマチのことだ。生き地獄の炎に焼け爛れた母娘の心が、フサフサした柔らかい温もりでどれほど癒されたことか・・・不和の苦しみに凍てつく愛情が、あどけない犬の甘えで何度溶かされたことだろう。骨壷の中のコマチは、家族の一員としてドッグセラピーとして今も健在だ。・・・あの子の体や仕草は、私たちの思い出の中で生き続けているから・・・・・
永久の人のうた
かの人の 我への想い 限りなく 深淵の様 ただありがたし
(この世に生まれてやっと巡り逢えた至福の愛。こんなにも大切に愛されている私に出来る恩返しは・・・仏様とあなたを命がけで信じること)
君と我 心ひとつの 比翼鳥 深き契りの 連理枝もがな
(今生の肉体は互いに見ることすら許されぬあなたと私だが、御本尊様を信じ抜いて永遠に一体不二の生命でいたい)
内裏雛 じっと見つめて 何思う 男雛はあなた 女雛は私
(今は心に感じる愛だけど、来世こそ、この試練が実ってあなたと晴れて結ばれよう)
愛娘のうた
海の原 瀬戸の島影 婉然と 久しきみどり 母の付けし名
(娘の名前の由来を詠んだ歌。明石育ちのせいか、青い海が私の人生の一部になっている)
親子鳥 果てなき青に 染めもせず 一途に飛べよ 金色めざして
(酉年の年賀に添えて。私たち親子に対する世間の色メガネは外れそうにもないけれど、決して負けずくじけず、真実という名の成仏を一途に遂げていこう)
いのししの 勢い借りて まっしぐら 生きて成仏 母娘の悲願
(亥年の年賀に。先のことを考えれば立ちすくんでしまう今だから、信心即生活で何もかもふっきって進もう。生きて幸せになることは、お前と私の長年の悲願だもの)
愛犬のうた
引き紐の 重たいコマチ 行きの道 帰りは軽き 引かれ紐かな
(散歩は喜ぶワンちゃんなのに、少し歩くと足を踏ん張って立ち往生。帰りは私を引っ張ってくれた)
叱られて 逃げ込むコマチ ベッドの下 猿も届かぬ 犬知恵おかし
(怒られるとお尻をぶたれるので、一つしかないベッドの下にすっとんで逃げた。それも奥に隠れるので、人間は手の出しようがない)
うす紅の しるし初めて 如月に 咲くや紅梅 コマチも娘
(コマチが生後9ヶ月で初潮をみた。犬は早いのに驚いた。医者の勧めでその数ヵ月後に避妊手術を・・・それがコマチにとって果たしてよかったのか?)
父のうた
隠者の身 享受する父 悩ますは かの浮世種 パチンコぞかし
(震災で潰れた廃屋で、妻子とも関らず、一人孤高の生き方を標榜する父。その実は、妻にも渡さない年金をパチンコに入れあげて、道楽にやつれた生活を送っているんだね)
母のうた
涙満つ 我を戌母は 生み給いし さればこそ今 かくも求道す
(戌年の年賀に。母はわがままな感情から、まだ訳の分からない私に自分に都合のいい色をつけた。その色に教師や同級生たちのレッテルが次々に貼られて・・・一生苦しむ人生になった。地獄の涙を流し続けたからこそ、私は今、死に物狂いの信心が出来る・・・)
母のため 鈴を求めし 道すがら さやけき風に 胸つまる春
(母の後飾りに使う鈴を買いに出て。さわやかに吹き付ける春の風が悲しかった。悪因縁に繋がれた親子だったけれども、母は母、血のいとおしさは抑えようがない)
夢路にぽっ 現れねだる かわいい母 苺ちょうだいか ホロリ枕に
(6年間、母の介護をした。思いやりや思慮の薄い人だったから、苦しい葛藤やゴタゴタが絶えなかったが、私の性分だろうか、介護の年数を重ねるにつれて世話をすることが喜びとなり、母が子供のようにかわいく思えてくることもしばしばあった)
夫のうた
ハンバーグ 何故煮たかの 大文句 夫唱婦随のはいで逃げ切る
(夫の口の暴力から逃れるには、当たり障りのない返事で凌ぐしかない)
行楽の思い出・桜の通り抜けのうた
いとおしき 君主の枝に 抱かれつつ 艶花満開 楊貴妃桜
(古今東西人々を魅了し続ける楊貴妃。彼女の輝きはきっと、玄宗の純愛が放つ光そのものなんだろう)
行楽の思い出・紅葉狩りのうた
老いの目を 輝かし声 はしゃぐ母 紅葉見たいと 見たいと紅葉
(母にねだられて重い腰を上げて来た甲斐があった。母がこんなにも喜ぶのだから)
箕面山 天地山々 水の中 紅葉の他に 見えるものなし
(どこを向いても紅葉一色。川も池も赤や黄に染まって・・・堪能した)